日常生活の中で、軽いやけどは誰しも経験したことがあると思います。
やけどは皮膚や粘膜が熱によって損傷することですが、原因となる熱源の温度と接触時間によって重症度が大きく変わります。
お湯が最も身近なやけどの原因とは思いますが、ポットのお湯が直接かかるのとコップに入れたお湯がかかるのとでは、
温度が違うため、やけどの重症度が変わります。
また、湯たんぽやカーペットのような暖房器具に長時間あたっていると低温やけど熱傷になり、深くまでダメージが及びます。
直後はほんのり赤いくらいにしかみえないこともあるので注意が必要です。
こういった身近なやけどでも、軽いやけどと自己判断して放置したために、手術が必要になったり、
痕が残ってしまう方もいらっしゃいます。
そういったことにならないように、やけどについて応急処置の方法も含めてご説明します。
熱湯や油といったものが多いですが、アイロンやホットプレート、花火など身の回りの多くのものが原因になりえます。
小さなお子様では、炊飯器やポットの水蒸気に手をかざして受傷することもあります。
手のひらのやけどは、ひどくなると手を開きにくくなるなどの後遺症で手術が必要となることもありますので、
すぐに受診するようにしてください。
冒頭にも書きましたが、低温やけども厄介です。
下腿(かたい)に多いやけどで、50度前後の温かいものに長時間触れていると起こります。
湯たんぽやヒーターのような暖房器具をご使用の際は、直接肌にあたらないようにしたり就寝時の使用は避けるようにして、使用後に少しでも違和感があれば、診察を受けていただきたいです。
酸やアルカリといった薬品による化学熱傷もやけどの一種で想像以上に深く薬剤が浸透することもありますので、洗剤などを使用する際は製品の注意書きをよく読んでお使いください。
やけどは損傷の深さによって3段階に分類されています。
表皮という皮膚表面のみのやけどで、皮膚が赤くなってひりひりとした痛みがあります。
数日で治癒することが多いですが、日焼けのように色素沈着を起こすことがあります。
表皮の下の真皮(しんぴ)まで達するやけどです。
Ⅱ度熱傷はさらに真皮の浅いところと深いところの2段階に分けられています。
浅い層のやけどの場合は、皮膚の赤み・水ぶくれが生じ、痛みも強く出ます。だいたい2週間程度で治癒します。
治ったあとに、茶色く色素沈着を起こしたり、逆に色が抜けてしまう色素脱失(しきそだっしつ)を起こすことがあります。
深い層のやけどは皮膚の表面が壊死(えし)(皮膚が死んだ状態)しており、1カ月程度の治療期間となることが多くなります。
その損傷のひどさとは逆に痛みを感じにくくなるため、注意が必要です。この深さまで損傷してしまうと、やけど痕が残る可能性が高くなります。
真皮の深さでの分類は見分けが難しく、治療しながら判断をつけていくこともあります。
浅い層のやけどが感染などにより、深い層までの損傷に移行してしまうこともありますので、適切な治療を受けることが重要です。
皮膚の下の皮下組織まで達するやけどです。知覚神経が損傷するため、痛みはほとんどありません。
また血管も損傷されるため、皮膚は血流が少なくなり、白くなります(黒くなることもあります)。
感染しやすい状態のため、周囲に炎症が及ぶと痛みを引き起こします。
低温熱傷ではこのⅢ度熱傷になることが多くなります。治癒には数カ月かかり、ひきつれなどのやけど痕が残ります。
Ⅱ度以上のやけどの面積や部位から「Artzの重症度分類」を用いて、重症度を判定し、入院が必要かどうかを判断することになります。基本的には面積が広いほど重症度が高くなりますが、年齢も考慮されます。
やけどをしてしまったら、まずは流水(水道水)で冷やしてください。
この応急処置が、実はその後のやけどの治り具合にも影響します。
最初に流水でしっかり冷やすことで、熱がこもってやけどが深くなることを防ぐことができるためです。
服を着ている部分のやけどであれば、服のままシャワーなどで冷やすようにしてください。
また、この時水疱(水ぶくれ)ができていれば、なるべくつぶさないようにしてください。
つぶれると、皮膚を覆うものがなくなるため感染しやすくなりますし、痛みも強くなります。
応急処置をご自身で頑張っていただいた後は、できれば診察を受けるようにしてください。
特に、温度が高いものによるやけどや、接触時間が長かった場合は深いやけどである可能性が高くなります。
診察にきていただけるのであれば、お電話で応急処置についてもご案内が可能です。
まずはやけどの程度を判断します。浅いやけどの場合は、軟膏や外用剤で湿潤療法を行います。
水疱(水ぶくれ)がある場合は、中の水分を抜いて、表皮でやけどした皮膚を覆うことで皮膚の保護をすることもあります。
深いやけどの場合にも、初期治療としては湿潤療法となりますが、経過をみながら、傷んでしまった組織の除去などの手術を行うこともあります。
浅いやけどでも感染を起こすと、深くまで組織が損傷するため、同様の手術を必要とすることがあります。
受傷直後には、やけどの程度がわかりにくいことも多く、しばらくは通院を続けていただき、
状態に合わせて必要な治療についてお伝えさせていただきます。
また、やけどの程度がひどい場合は、入院可能な病院への紹介をさせていただきます。
やけどが治癒して皮膚が再生することを上皮化といいます。
上皮化したあとも、皮膚の下では、身体が損傷を修復しようと頑張っています。
その結果、いったん治ったように見えて、数か月後に色が残ったり、やけど痕が盛り上がってしまうことがあります。
また、皮膚が傷んでいるために、乾燥やかゆみが出ることもあります。
茶色く色が残る色素沈着や痒みは、ビタミン剤の内服や外用剤で多少軽減することが可能です。
また、紫外線対策が色素沈着の予防に有効です。
肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)といって、その部分だけ盛り上がっている場合には、注射や内服で経過観察し、
ご本人の希望が強い場合は手術で切除することもあります。
やけど痕で一番厄介なのは、瘢痕拘縮(はんこんこうしゅく)(ひきつれ)です。
手のひらや関節周囲で深いやけどを負うと、やけど痕がひきつれて関節を上手く動かせなくなることがあります。
放っておくとその関節が動かなくなってしまうこともあるので、手術で瘢痕拘縮(ひきつれ)を解除する必要があるのですが、
年齢や状態を慎重に見極める必要があります。
これらのやけど痕は治ったと思ってからしばらくして出現することも多いので、気になる症状については早めに診察を受けるようにしてください。
やけどの初期治療は非常に重要です。当院では、応急処置やご自宅での処置についてのアドバイスも行っております。
お子様やご高齢の方で、処置が難しい方についても、可能な方法を生活に寄り添ってご提案させていただきます。
また、重症度の高いやけどについても速やかに判断し、入院可能な病院への紹介など、しっかり対応させていただきます。